文化ジャーナル(平成18年11月号)

2006年11月1日

文化ジャーナル11月号

『まんがNo.1』の時代(5)

長谷邦夫さん インタビュー

出■長谷邦夫(漫画家、大学講師、漫画論、栃木県在住)

席▲坂本秀童(徳島謄写印刷研究会代表、牟岐町出羽島在住)

者●小西昌幸(北島町立図書館・創世ホール企画広報担当)

長谷■横尾さんに「じゃあ、目の前で描いて下さい」って。だってスケッチだもん。手帳の倍くらいの紙に鉛筆書きのスケッチが1枚なんだから。それで表紙作っちゃうんだから。だけどほら、絵のイメージ材料が必要ですよねえ。それをどうやってコラージュ するか、イメージの問題だから。古い絵ハガキやメンコや、写真をながめつつ、白い紙を前に置いて横尾さんが略画的にスケッチして「長谷さん、こういう感じはどうかね」なんて感じでやるんですよ。

小西●じゃあ、表紙を取りにいくだけで1日仕事ですねえ。でもその体験は、とても貴重で大切なものですね。

長谷■そうです。横尾さんの創作の瞬間に立ち会っているわけです。

小西●『まんがNo.1』は、本当にそうそうたる顔ぶれの雑誌だったと思うんです。感心するしかないんですが、高信太郎さんが原作で佐伯俊男さんがイラストを描いていたりですねえ、ただただ物凄い。もう1つの特徴が附録ソノシートですよね。

長谷■はい、はい。

小西●創刊号附録は、三上寛さんの「おまわりさん」で作詞が長谷さん、作曲と歌が少年Aとなっていますが、例えばレコード会社との契約上の問題のためにこういうクレジットなのか、あるいは単なるおふざけなのか。そのあたりのことをお教えください。

長谷■三上寛は彼の所属している事務所とレコードを出すときの業 界上の約束があります。ソノシートは『まんがNo.1』が勝手に出しちゃう突発企画だから、正式名を出すのは一応困るという形なんですね。それで少年Aというクレジットにした。で、内容がおまわりさんに本の万引きをあやまる歌なんだよね。これ、すっごくいい曲なんだよ。そして歌詞は、大江健三郎の当時の有名な小説だとかね、小説のタイトルだけで作った。大江さんの『性的人間』とか、万引きした本の書名をつぎつぎに並べて「許して下さい、おまわりさん」ってあやまる歌なんだよ。(笑)で、ギター一本で録音しちゃうわけだから、これは凄く簡単にできちゃった。

小西●録音となると録音スタジオ、ソノシートを作るにはプレスする会社を探しておかないといけませんね。そのあたりのことはすんなりいきましたか。

長谷■レコーディング自体はね、これはもうプロの世界だから、僕が口を出すとかそういう問題じゃなくて、当時赤塚が知り合ったポリドールの井尻新一さんという方の紹介でね、ちゃんとしたプロの録音スタジオ2か所で録音しました。

小西●録音は1日ですか。

長谷■そうですね。スタジオを4、5時間借りて。その録音スタジオ所属のプロのミキサーがいるんですよ。その方が録音してくれる。その録音テープをプレス会社に持って行く。ただし、ソノシートに入れるので、そんなに幅広い音域に入れられないので、マ スターテープからトラックダウンして、単純な音に落として、プレス会社に持って行った。その作業自体は問題なかったのね。ただし、これを本の中に付録として・・・・・・というのが、ちょっとネックになった。

小西●貼り付けていますね。

長谷■紙に貼り付けてあるでしょ。で、普通の1頁の中に貼り付けてある。ところがこれはね、当時の国鉄に持って行くと貨物列車に乗せてもらえないんだよ。脱落するという名目によって。だけどこれ絶対に落ちないでしょ。

小西●はい。どうみても落ちませんね。だって、ここにある本も三十年以上経ってますが、落ちていません(笑)。

長谷■そうでしょ。でも、落ちないものを当時の国鉄は落ちるからダメと断わるんですよ。

小西●ヘリクツですね。しかも官僚主義丸出し。

長谷■わざと仕事を減らしているんですよ。貨物列車に、問題ない貨物を乗せないんだから、貨物会社は赤字になるに決まっているじゃない。国鉄貨物では荷物を運んでもらいたいのに、ことわっちゃう。それで空列車を走らせている。アホな奴等。附録つきの 雑誌は皆、トラック便に変わってしまった。

小西●ところでこのソノシートを貼り付ける技術も難しいのでは?

長谷■イヤー、それはできると思いますね。糊も今、何年経ってもこうやって完璧にくっついているし。おっこちないしね。

小西●それにしても、このソノシートはもったいなくて聞けないですね。切り取る勇気が湧かないです。(笑)

長谷■ハハハ。そう思うでしょう。だから、たぶんマニアは2冊買うだろうって。これは1冊切り抜いてね、完璧なものを保存用にもう1冊買ってくれるだろう、だから『まんがNo.1』は2冊買ってもらえるぞ、売れるに違いない、なんてバカな冗談いって笑ってたんだよ。(一同笑)

小西●ソノシートを貼り付けるというアイデアは、すぐひらめきましたか。

長谷■うん、それはね『MAD(マッド)』のように紙袋に入れる というわけには行かないなと思いましたから。『MAD』は、年1~2回の別冊を作っているわけですけど、これは毎号月刊でやるわけですからね。

小西●このソノシートにしても、通常ならば赤か黒の盤にシルバーの文字を入れる程度だと思うんですが、わざわざ透明盤にして、台紙部分の絵を毎回異なるイラストレーターに依頼して描いてもらっている。凝りに凝っているんですね。すみずみまでのこだわ りが凄い。これも長谷さんの方針なんでしょ。

長谷■これは僕のアイデアだよね。自分でもいたずらしたいからね。

小西●毎号、表紙に1日かかるわ、ソノシートにも数日かかるわ、大変な労力でしたねえ。とにかく感嘆しました。〔次号に続く〕

【一部敬称略/収録=2001年3月5日 徳島市・ふらんせ蔵/採録文責=小西昌幸】

まんがNo1表紙

▲『まんがNo.1』第3号(1973年1月号、日本社)表紙=横尾忠則 提供=サエキけんぞう

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