文化ジャーナル(平成19年5月号)

2007年5月1日

文化ジャーナル5月号

『まんがNo.1』の時代(10)

長谷邦夫さん インタビュー

出■長谷邦夫(漫画家、大学講師、漫画論、栃木県在住)

席▲坂本秀童(徳島謄写印刷研究会代表、牟岐町出羽島在住)

者●小西昌幸(北島町立図書館・創世ホール企画広報担当)

小西●えー、私の手違いで質問の順序が前後してしまいましたが、4号(1973年2月号)のソノシートについて伺います。この号の附録ソノシートは、いよいよ山下洋輔トリオの登場ですね。これは順当な路線だと思いますが、無難に事は運びましたか。

長谷■無難じゃないですよ。これはジャズじゃないんだ。語りモノなの。山下さんが、乙骨(おっこつ)先生というキャラクターで隠し芸をするんだけど。相方の中村誠一さんが差別語連発だものね。

坂本▲ハイハイ、乙骨健太郎というキャラクターですね。

長谷■そう、乙骨先生という教授がね。ペニスゴリラなるゴリラの故事来歴を語るというとんでもないものなんだよ。(笑)サックスの中村誠一さんと、掛け合いで演じる隠し芸なの。

坂本▲後になって乙骨健太郎というのは山下洋輔さんからタモリさんに受け継がれたんですよね。

長谷■そうなんだよねー。だから元ネタは山下さんなんだね。山下さんの音楽は本物だけどそれでは冗談レコードにはならないので、この号では「とんでもないモノやろうよ」って言ったわけです。

坂本▲バックの音は?

長谷■これはね、アフリカン・サウンド。凄い冗談をやってるの、この音も。山下さんの相棒だった森山威男さんのドラム演奏を入れたかったんだけど、威さんが肝臓やられてねえ、ちょっと休養中だったものでね。渡辺文男さんっていうドラマーにやってもらった。楽しいドラマーだよ。アフリカの原始的なドラムみたいに演奏をしてもらいたいということで、山下さんが捜してくれた。

探険隊がジャングルを抜けると、集落から聞こえてくる怪し気な土着音楽・・・・という設定でした。僕は前に蠍座という映画館で、山下さんと渡辺文男さんがデュオで演ったコンサートを聴いていた。そのイメージが、冗談音楽ではどうなるか?と思っていたら文男さんがもう、アフリカの黒人になってるんだよ。(笑)普通にジャズドラムは叩くんだけど、文男さんの足に鈴がついているんだよ。(笑)それで暴れるからさ、色んな音がするの。

坂本▲コンガを持ちながら足踏みステップするような感じですか?

長谷■そうです。アフリカの黒人がジャングルの中で集会をしていて、誠一さんが蛇笛というオモチャの笛を吹いたり、ドンドコ、ガチャガチャやって。そこで山下さんの乙骨先生が延々と講義をするという趣向です。もうねー、メチャクチャ面白い。ちゃんとしたスタジオで録音しました。プロのミキサーが「今までに色んな音を聞いてきたけど、これは一体なんなんですか?」って。(笑)ミキシングして、トラックダウンやっている間も、もう面白くて笑い転げたよ。

坂本▲これは本当に贅沢なものですね。

長谷■帰りのタクシーの中でもね、そのテープを聴いてその間もノリっぱなしで帰ってきた。もう、躁状態。(笑)

小西●赤瀬川原平さんの連載が3号から始まっているんですが、赤瀬川さんには前からお願いしようと考えておられたのですか。

長谷■どうして赤瀬川さんが参加してくださったかというとね、以前お話したように編集部が素人ばかりで、困って「これでは本が作れないよ、誰か助けてくれないかなあ」って矢崎さんに相談したのよ。そうしたら「じゃあ、本間健彦を連れてくる」って。「『新宿プレイマップ』を作った本間健彦は、俺が育てたんだ」って矢崎泰久は言うのね。「『新宿プレイマップ』は休刊しているし、今、暇なはずだから、本間呼ぶからね。彼にやらせてくれ。入稿のプロだから」っていうわけ。そこで本間さんに「グラビアを何とかしたいので、カメラマンの人と、イラストの人、どなたかこの本に合うような人を紹介してくれませんかね」って依頼したらね、2人の人を紹介してくれたの。その1人が赤瀬川さん。もう1人がカメラマンの中川政昭さん。両方とも大変な人なんだよ。赤瀬川さんの仕事ぶりは、僕はよく分かってますからね。さっそく赤瀬川さんのご自宅に連れて行ってもらって、「ぜひ、カラーページに描いてください」って頼んだ。4色カラーも2色の所もありますよ。

小西●依頼に行かれたときは、赤瀬川さんに「こういうネタでお願いします」というような形で話は進んだのですか?

長谷■余計なことは言う必要がなかった。別に僕がテーマを言うとか、狙いを定めるというようなことは一切抜きで、とにかく勝手にやってくださいと。ネタがあるというのではなく、『まんがNo.1』という、こういう本なので、ご自由に描いてくださいとお願いしました。

小西●毎号、長谷さんも赤塚さんもお描きになっているのですが、それは穴埋め原稿的なモノもありましたか?つまり、どなたかの原稿が締め切りに間に合わず、急きょその穴埋めをするというようなケースは?

長谷■穴埋めの場合はフジオプロの若手スタッフに描かせようと思っていました。てらしまけいじ、びとう皓吉、古谷三敏、芳谷圭児らが居るんですから。

坂本▲柱をある程度決めて。

長谷■はい。すべて外注して、原稿取りに行ってたらさ、仕事の遅い人ばっかりでさ。なにしろメチャクチャていねいだしさあ、これでは絶対月刊誌は出ないですよ。だから部内原稿で、ある程度準備しておくということをやっておかないといけなかったんだ。

小西●ぜひほかの大物のこともお教えください。

長谷■及川正通さんは凄いていねいな仕事してるんだ。僕は初めてそれを見てショックだった。あんまりていねいなんでね。例えば人物の手の表情を描くためにポラロイド・カメラで写真撮影してね、それから下絵原稿をおこしているのね。着色は全部エアブラシで描いていた。マスキングしてエアブラシで着色して。桑原さんという若い女の子に原稿を取りに行かせたんだけど、なかなか帰ってこないので心配になって見に行ったんだ。そうしたらいま言ったような仕事なの。うわー、これじゃ「早く描いて」とはいえないなあと思ってね。

坂本▲ご本人が着色してカラー原稿を作って、全部一人なんですか。

長谷■そう全部一人。

坂本▲後指定かと思いましたけど、違うんですね。

長谷■違います。完璧な着色原稿です。色指定作業でも出来るんですよね、ある程度。

坂本▲出来ますよね。

長谷■だけど、それをしない。作業中ぼくは、奥さん手造りのギョーザを御馳走になってました。

小西●やっぱり、皆さん本物のプロフェッショナルですねえ。感服です。〔次号に続く〕

【一部敬称略/収録2001年3月5日徳島市・ふらんせ蔵/採録文責=小西昌幸】

本の表紙

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