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文化ジャーナル(平成14年2月号)

文化ジャーナル2月号

情報メモランダム

北島町立図書館・創世ホールの書物文化をめぐる講演会の記念すべき第1回講師をつとめられた紀田順一郎さん(作家、書物研究家)が、3月に徳島にやって来る。徳島県立近代美術館で開催中の5人の画家・造形作家による展覧会「自然を見つめる作家たち」のギャラリー対談のゲストとして、3月10日(日)午後2時45分から1時間登場する。対談相手は、当展覧会に出品している日本画家・森山知己(もりやま・ともき)氏。森山氏は岡山の人で、紀田さんも岡山に仕事場を構えておられるので、旧知の間柄らしい。紀田さんの徳島入りは久しぶりなので、再会が楽しみだ。同展覧会の森山氏以外の出品者は、秋岡美帆、大久保英治、本田健、水口裕務の4氏。会期は、3月17日(日)まで。ギャラリー対談を見るには観覧券(一般600円)が必要。

海野十三関連文献のご紹介を。兵庫県ゆかりの埋もれた人物54人にスポットを当てた『ひと萌ゆる』(神戸新聞総合出版センター、2001年12月4日刊、本体1800円)が出た。「神戸新聞」で毎週水曜日に紙面1頁をたっぷり費やして読切連載された人物ルポがまとめられたもので、推理小説ファンの間などでひそかに話題を呼んでいる(単行本では、各人6頁のスペース)。海野は徳島で生まれ、父親の転勤で8歳のとき神戸に移り住んでいる。これまで、彼の神戸時代については謎だったのだが、神戸新聞社の平松正子記者と神戸高校の永田實先生によって古い校友会誌から佐野昌一(=海野の本名)名義のエッセイ5編が発掘され、本書で紹介されている。これは2000年12月、記事の取材過程で見付けられたもので、近年の大収穫というべき新発見資料なのだ。SF愛好者たちはもっと注目してもよいと思う。海野のほか大衆文学系作家では、平田晋策が取り上げられている。

末永昭二氏は『新青年』研究会の事務局的存在で、優れた大衆文学研究家。氏は海野十三(佐野昌一)が電気雑誌に連載した随筆類の資料調査を続けており、いつか海野十三忌講演会で必ずお招きしなければならない存在である。そんな彼の書き下ろしの研究書『貸本小説』(アスペクト、2001年9月14日刊、本体1800円)が面白い。日本で貸本屋が全盛だった頃、貸本漫画だけでなく貸本小説もあった。しかしその方面の研究はこれまで皆無といってよい状態だった。末永氏は、本書で幻の貸本小説の歴史と実態、その作家・作品を丹念に紹介。前人未到の荒野を開拓し、歴史の空白を埋める労作である。

小宮山博史・府川充男・小池和夫3氏の共著『真性活字中毒者読本』(柏書房、2001年9月30日、本体4500円)が刊行された。3氏はいずれも印刷史研究会同人。「新聞の切れ端から朝毎読を見分けるくらいは朝飯前、築地活 版・秀英舎・精興社・三省堂・岩田母型・モトヤ・日本活字工業・錦精社等々、主要な活字の系統は細部にいたるまでそらんじている」(はしがき)活字書体研究家すなわち真性活字中毒者による論考、講演、対談、座談、インタビュー等で構成された怒涛の四百頁。珍しい図版多数収録。

片塩二朗氏率いる朗文堂はタイポグラフィ、デザイン書の専門出版社として意欲的な出版活動を続けている。同社からタイポグラフィ研究誌『ヴィネット』創刊準備号(2001年12月10日刊、本体3000円)が出た。同号は「櫻痴、メディア勃興の記録者」と題して、幕末維新の個性豊かな新聞人・実業家・作家であった福地櫻痴(ふくち・おうち)を全面特集している。この時代がいかに型破りで魅力的、かつ志高い人物を生んでいたかということがよく分かる。

横田順彌さんは、SF作家であると同時に日本の古典SF文学研究家として大きな業績を刻んできた方である。氏の『日本SFこてん古典』全3巻(早川書房から単行本、後ハヤカワ文庫、集英社文庫、現在絶版)は貴重書として研究家の間では重宝がられ、古書価も高騰している。こういう本こそ、常に流通しているべき基本文献なのだと私は思う。岩波でも新潮でも講談社学術文庫でもどこでもよいから、復刊して欲しい。その横田氏の新連載「近代日本奇想小説史」が『SFマガジン』2002年1月号から開始されている。連載第1回の文章を読むと、氏がこの連載にいかに力を注いでいるかがひしひしと分かる。横田さんは海野十三の2度目の石碑建立の際に、SF作家クラブとの重要なパイプ役を果たした方であり、徳島県民は特にその名を銘記するべき作家である。思う存分健筆をふるっていただき、さらなる業績をきざんで欲しいと願う。

1999年10月に当館は、柴野拓美さんの講演会「日本SFを築いた人たち~SF同人誌『宇宙塵』・40年の軌跡」を開き、大きな話題を集めた。柴野さんは小隅黎(こずみ・れい)名義で作家活動や翻訳活動をしておられるSF界の元老の1人である。私は、講演会の翌年2000年6月、柴野さんのご自宅(神奈川県二宮町)を訪問、書斎を拝見したことがある。そのとき柴野さんは、私を案内しながら「自分のこの世での最後のご奉公と思って今これをやっているんですよ」といって翻訳中の部厚い原稿の束を見せてくれたのだった。それは、E・E・スミスの大作「レンズマン」シリーズの翻訳原稿だった。2002年1月、同シリーズの記念すべき第1巻『銀河パトロール隊』が東京創元社から発売された(本体840円)。編集担当の小浜徹也氏(徳島県藍住町出身)は、柴野さんの講演会のときにはわざわざご夫婦できてくださったのだったが、氏の話によると、この「レンズマン」の翻訳話を柴野さんに持ちかけたのは99年の創世ホールのロビーだったらしいのだ。小隅(柴野)さんによる「訳者あとがき」と野田昌宏さんによる解説「永遠のE・E・スミス」はとにかく読書人必読、屈指の名文だと思う。書店で立ち読みして嗚咽にむせんだ人もいたのではないか。それくらい心のこもった熱い文章だった。池田憲章氏も衿を正して読んだといっていた。本書の「訳者あとがき」と「解説」は、40年以上にわたって友情をはぐくみ、戦後SFを裏方として支え、同時に文壇を牽引してきた2人のSF人生を背負った「白鳥の歌(スワン・ソング)」といっても過言ではないのではあるまいか。小浜氏の話では、新刊書の中で『銀河パトロール隊』はダントツの売れ行きを示しているという。喜ばしいことだと思う。全7巻のシリーズは4か月に1冊ぐらいのペースで刊行されるらしい。柴野(小隅)さん、どうかうんと長生きして、私たちをこれからも素晴らしいSF世界にお導き下さい。

(2002年1月31日脱稿 文責・小西昌幸)

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