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文化ジャーナル(平成14年6月号)

文化ジャーナル6月号

情報メモランダム
伊福部昭作曲音更町歌の素晴らしさ

先月号で木部与巴仁[きべ・よはに]氏渾身の力作評伝『伊福部昭・タプカーラの彼方へ』(ボイジャー)を紹介した関係で、全国各地の伊福部ファンと連絡を取り合うようになっている(具体的には東京と北海道)。改めて伊福部ファンの熱意に驚いているところだが、その交流過程で私(小西)は新しい情報をいくつか得た。私の興味を特に引いたのは北海道の音更[おとふけ]町という町が伊福部昭とのゆかりを大切にして、地域おこし的取り組みをやろうとしていることだった。興味深いので、その辺のことを書き記しておきたい。

伊福部昭の父親は北海道音更村(現音更町)の村長を3期12年務めた。そういう縁があるため、1970年には「音更町歌」を伊福部が作曲、本年(2002年)5月20日には同町に「伊福部昭音楽碑」が建立されている。「町歌」は同町のホームページからダウンロードできるので、スピーカーがついているパソコンなら、その歌を聞くことができる。歌曲は、誠に荘厳・雄大・華麗なもので素晴らしい。まさに北海道の大地を踏み締めるようなのびやかな音楽だ。

私は自宅のパソコンから音更町の電子掲示板や、北海道の伊福部ファンの方が主宰するサイトの掲示板に町歌の素晴らしさを絶賛し、「町歌のCDが作られるならぜひ買いたい」旨の書き込みをした。それに対して次々とリアクションが沸き起こり、次のようなことが分かった。

一.町歌のシングル盤は、当時町民に配布された。A面が伊福部昭作曲の「音更町歌」、B面が「音更音頭」で作曲者は映画「モスラ」の音楽担当・古関裕而だった。 ……【山田雄司氏の掲示板発言要旨】

一.町歌を新録音でCD化したいという動きは、町民有志の一部にある。作詞者のお孫さんは声楽家であり、町内に合唱団もあるので、時間はかかると思うが実現に向けて動いてみたいと思っている。 ……【音更町在住の南出匠[みなみで・たくみ]氏の掲示板発言要旨】

A面伊福部、B面古関という、大胆で痛快極まりないカップリン グは、怪獣映画をみて育ち、今も愛好している私には感激ものだった。同情報を書き込んでくださった北海道早来町の山田雄司氏はこれを「ゴジラvsモスラin音更」と呼んでおられる。『新青年』研究会の八本正幸氏と私は、「このシングル盤こそ世界最強の『町歌』レコードである」ということで合意に達した。

日本有数の伊福部研究のホームページ「大楽必易~伊福部昭HP~」(主宰:東京都世田谷区在住の豊田朋久氏)によると、「音更町歌」はコロムビア・レコードでシングル盤が作られている(作詞:三村洋、歌:三鷹淳、合唱:コロムビア合唱団、演奏:コロムビア・オーケストラ 品番PES-7209)。私(小西)の推測では、町がコロムビア・レコードに制作を依頼し、相当数をプレスして町民に配布したのではないかと思われる。「大楽必易」には、北海道「池田町歌」と「帯広市歌」も、伊福部が手がけたとある。

なお「大楽必易」には伊福部昭作曲の校歌が5つ存在する旨も記されている(短期大学1、高等学校2、小学校2)。豊田氏からいただいた情報では、その他にまだ校歌は存在するらしい。

木部氏の話では、熱烈な伊福部ファンで、自分の子どもに伊福部作曲の校歌を歌わせるため当該校区内に住居を構えた人が存在するとのことだった。ちなみに私が卒業した北島中学校の校歌は、若き日の伊福部を激励した山田耕筰作曲である。

町歌のCD化には町当局の合意や、町を動かす町民・関係者・支援者の大きなうねりが必要になると思う。幸い音更町は、(おそらく)全国唯一の伊福部昭音楽碑を建立した町である。可能性は大きいと思う。長く時間がかかってもかまわないので、実現に向けて進んで欲しいと、私は切に願うものである。本稿が、その実現に向けたエールの1つになるのなら、こんな嬉しいことはない。 (文責・小西昌幸)

◎当原稿を書くにあたり次の方々のご協力を得ました。謝意を表して列記させていただきます(50音順、敬称略)。木部与巴仁、豊田朋久、南出匠、山田雄司。


新刊情報

黒沢説子、畠中理恵子『神保町「書肆アクセス」半畳日記』(無明舎出版、2002年5月20日刊、本体1600円)は、大手取次とは契約できない小さな版元の書物を専門に取り扱っている「地方・小出版流通センター」の直営書店「書肆アクセス」の店員さんの奮闘記。 1998年10月から2002年3月までの出来事が綴られる。94頁から96頁にかけて、小西や木部与巴仁氏、池田憲章氏、河上進氏、安藤哲也氏などが登場する。

『ロック画報』08号(編集長:加藤彰、ブルース・インターアクションズ、2002年5月25日刊、本体1700円)は、季刊のロック雑誌。
かつてミュージック・マガジン編集部にいた加藤彰氏が編集をしておられる。今号は、「日本のパンク/ニュー・ウェイヴ」特集。小西が昨年CD解説を書いたスーパーミルクなどの貴重な音源を収録したCDが付いている。同誌は、05号で頭脳警察と村八分(付録CD:頭脳警察ほか)、07号でニュー・ロック(付録CD:J・A・シーザーほか)をそれぞれ特集。大変良い業績を積み重ねている。

J・A・シーザー、宇田川岳夫ほか『J・A・シーザーの世界』(白夜書房、2002年4月3日刊、本体4700円)は「演劇実験室天井桟敷」で寺山修司を支え、寺山没後「演劇実験室万有引力」を率いて今も活躍中の特異な演出家にして独特な音楽世界を持つ音楽家、J・A・シーザーの全貌に迫る書物。CD付き。ピンク・フロイドが来日したとき、デイヴ・ギルモアが「会いたい」といってシーザーに深夜電話をかけてきた話など、興味深いエピソードが満載。ちなみに本書のインタビューによると、ギルモアからの電話に対してシーザー氏はいたずら電話と思って切ったのだそうだ。

保科好宏、前澤陽一、小松崎健郎:監修『ザ・フー・ファイル』(シンコー・ミュージック、2002年5月10日刊、本体3000円)は、英国ロックの大御所ザ・フーの克明な資料集。保科氏は初代、前澤氏は2代目の元ザ・フー日本ファンクラブ会長。小西は前澤氏と面識がある。氏は、中学時代から約30年の長きにわたってファン・クラブ会長を務めた研究者であり、本業は日本広報協会に勤務するバリバリの編集者。小西は、かつて「北島タイムス」という広報紙を手作り版下で作っていたことがあり、前澤氏とはそのとき以来の交流なのだ。

その他幻想文学・異端文学関係の最近の収穫では『文藝別冊〈総特集〉澁澤龍彦 ユートピアふたたび』(河出書房新社、2002年5月30日刊、本体1200円)、『別冊幻想文学 種村季弘の箱』(アトリエOCTA、2002年4月1日、本体1800円)がある。また探偵・推理小説関係では、先頃徳島に来た日下三蔵氏の一連の仕事からは目が離せない。(2002・6・4脱稿 文責・小西昌幸)

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