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文化ジャーナル(平成14年9月号)

文化ジャーナル9月号

名張市立図書館(三重県)の乱歩資料集刊行事業について

中 相作■名張市立図書館嘱託、江戸川乱歩リファレンスブック編集者
小西昌幸●創世ホール企画広報担当、海野十三の会理事

三重県名張市は江戸川乱歩の生誕地だ。同市立図書館が、充実した乱歩資料集を刊行していることは数年前『季刊幻想文学』の記事で知った。そのコラムは『乱歩文献データブック 江戸川乱歩リファレンスブック1』(1997年3月31日)の充実ぶりを熱のこもった文章で紹介していた。同書は大きな反響を呼び、問い合わせた時には版元(名張市立図書館)品切れだった。その後私は、神戸の新刊書店で入手した。同書を手にして私は考えた。このようなユニークな事業が公立図書館でなされる背景には、必ずユニークな人材が存在するに違いない。ほどなくして同館には中相作という嘱託職員の方がいて、彼が資料集を手がけていることが判明した。同館からはその後『江戸川乱歩執筆年譜 江戸川乱歩リファレンスブック2』(98年3月31日)が刊行され、現在第3弾資料集『江戸川乱歩著書目録』が追い込み真っ最中ということだ。私は名張市のこの実践について注目し、敬服するものである。それで今回、中相作氏にお話を伺うことにした。以下は電子メールインタビューの採録である。(小西昌幸)

小西●中さんは今おいくつですか。

中■49歳です。

小西●お生まれも名張ですか。

中■名張市の豊後町で生まれました。乱歩が生まれた新町の隣の町です。

小西●中さんは、名張市立図書館嘱託という肩書ですが、図書館司書のお仕事をしておられるのですか。

中■司書ではありません。ただのカリスマ嘱託です。図書館の業務に関しては全くの素人です。ちなみに探偵小説に関しても古書に関しても全くの素人で、こんな人間がカリスマ嘱託でいられるのですから、名張市の人材払底にはきわめて深刻なものがあると思います。

小西●本業はフリーの編集者ということでよろしいでしょうか。

中■まあ、そういったところですが、ろくな仕事がありません。爪に灯をともす毎日です。

小西●中さんが嘱託に任命されたいきさつをお教えください。

中■乱歩生誕百年だった1994年のその前年、当時の市立図書館長から依頼を受けて乱歩作品の読書会の講師を務めました。2年だけという約束だったのにその後も読書会が継続事業にされていましたので、私は烈火のごとく怒りました。読書会なんかでお茶を濁すな、もっとやるべきことをやれ、と図書館職員を叱りつけましたら、それならそれをやってください、と頼まれてしまいました。気が付けばカリスマ、といった感じです。

小西●お父さんが「日本読書新聞」の編集長だったとお聞きしていますが。

中■佐野眞一さんの『業界紙諸君!』(2000年、ちくま文庫)収録の「『日本読書新聞』の“戦後総決算"」によりますと、亡父は「日本読書新聞」の編集部で昼間から酒くらって猥談に打ち興じていたそうです。とほほ。

小西●名張市立図書館が刊行している江戸川乱歩リファレンスブック・シリーズは大変な労作で、ご苦労も多いと思います。私は感嘆しました。現在追い込み中の資料集が第3弾になるわけですが、美術館や博物館ならともかく市立図書館がこういう非常にきめ細かな資料集を作るということは、全国的にも類似例がないと思います。刊行のいきさつや企画の意図等について、順を追って解説していただけないでしょうか。苦労話もまじえていただけると、助かります。まず『乱歩文献データブック』から。

中■さっきの続きになりますが、名張市立図書館は昭和44年の開館からこのかた乱歩の著作や関連文献を集め続けてきたわけですから、それを公のものにすることを考えなければいけません。この場合の「公」は名張市にとどまりません。乱歩の本を集めてる公立図書館なんて、ほかには存在しないわけですから、こと乱歩に関しては名張市立図書館の「公」は全国だと考えるべきです。ですから市立図書館の蔵書に基づいて乱歩の書誌を作り、全国の研究者や評論家、ファンの方に広く活用していただくのが良いだろうと考えました。1冊目は乱歩の関連文献を体系化して『乱歩文献データブック』というのを出しました。図書館が出す書誌ですからまず乱歩の著書目録を、とも思ったのですが、それには乱歩のご遺族にお願いして乱歩邸の土蔵に保管された乱歩の著作を調べさせていただく必要があります。だから最初は関連文献の目録を作って名張市立図書館にどの程度の仕事ができるのかをご遺族にご覧いただき、ある程度のご信頼がいただけたら土蔵に乗り込ませてもらおうと画策いたしました。

小西●私は『乱歩文献データブック』を拝見して、内容の濃さもさることながら造本・体裁も素晴らしいと思いました。シリーズを通して戸田勝久さんのデザインです。戸田さんは、どういう方ですか?

中■戸田さんは神戸にお住まいの洋画家で、本の装幀も手がけていらっしゃいます。この人しかいないと思ってお願いしました。ごく安いギャラにも関わらず素晴らしい装幀をしていただいて感謝しております。近く泉鏡花の句集を装幀するとかおっしゃってました。

小西●第2弾が『江戸川乱歩執筆年譜』ですね。

中■関連文献の後は乱歩作品を体系化することにして、乱歩が何年何月に、どこに何を発表したのかというデータを跡づけました。ご遺族から乱歩が残してあった自作の切り抜きをコピーして大量に送っていただいたりなんやかんや、前回以上にいろんな方のご協力を頂戴しました。2年続けて乱歩の書誌を作ったわけですが、この調子で3冊目に突入したら確実に過労死するぞ、と思いましたのでちょっとインターバルを置くことにしました。

小西●そして今秋刊行予定の『江戸川乱歩著書目録』になるわけですね。見通しはいかがですか。

中■なんとか乱歩邸の土蔵にも乗り込ませていただいて、乱歩のお誕生日である10月21日に刊行の予定なんですが、ちょっと怪しくなってきました。これ以上のことをお話しすると、まだあの作業が残ってるこの作業もしなければと頭が痛くなってきますので・・・・・・。

小西●私が中さんと初めてお会いしたのは1999年6月に帝国ホテルであった中島河太郎先生の「お別れの会」のときでした。中島先生と平井隆太郎先生に監修を依頼された経緯は。

中■中島先生は探偵小説評論の第一人者でいらっしゃいましたし、平井先生は乱歩のご令息。監修者としてこのお二方以上にふさわしい方はいらっしゃいませんでした。中島先生には、一度お目にかかっただけでしたが、書簡などを通じて色々なことを教えていただきました。あらためてご冥福をお祈りいたします。

小西●中さんは「名張人外境」というホームページを運営されていますね。

中■「なばりにんがいきょう」と読みます。「人外」は乱歩がひそかに好んだ言葉です。8月29日発行の「日経ネットナビ」10月号(日経BP社)の 230頁では「三重県名張市の市立図書館作成」のホームページだとご紹 介いただきました。ちょっと違うんですけど。

小西●今年名張市は、10月に江戸川乱歩がらみでユニークな連続企画を開催されるようですが、最後にそのPRを。

中■乱歩は生後間もなく転居したせいで、生まれ故郷の名張を全く知らずに晩年を迎えました。名張を訪れて自分の生家跡に案内されたのは昭和27年秋のことでした。今から50年前の話です。そこで名張市と名張市教育委員会は今年10月、江戸川乱歩ふるさと発見50年記念事業「乱歩再臨」というのを催します。6日が真保裕一さんのミステリー講演会、13日が旭堂南湖さんの探偵講談、20日が乱歩ゆかりの地をめぐるウォーキングです。詳細は名張市オフィシャル・サイトの「乱歩再臨」でご覧いただけます。

小西●ますますのご健闘をお祈りします。どうもありがとうございました。

【一部敬称略 電子メール取材 2002・8・26~31 採録文責:小西昌幸】

《問合せ:名張市立図書館/TEL.0595-63-3200/〒518ー0712/三重県名張市桜ケ丘3088ー156》

本の表紙

江戸川乱歩執筆年譜

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