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文化ジャーナル(平成20年7月号)

文化ジャーナル7月号

制作現場の熱気を伝えたい(後編)

『マンガ編集者狂笑録』著者長谷邦夫氏に聞く

長谷邦夫●ながたに・くにおマンガ家、大学講師(マンガ論)、栃木県在住

小西昌幸★創世ホール企画広報担当

小西★第6話の峯島正行さんとは架空対談という形式です。峯島さんは『週刊漫画サンデー』の編集をされた方ですが、赤塚さんを引っ張り出すエピソードなど拝見しますと、大変なアイデアマンですね。感服しました。大いに勉強になりました。

長谷●峯島編集長、なかなかの策士ですよ。漫画集団を中心とした雑誌作りでしたから、保守的な方かな、と思っていたら、赤塚を取り込み、ぼくにパロディを16ページもので連載させてしまう。実に大胆ですよ。のちには『週刊小説』(実業之日本社)の編集長になられます。そして有楽出版経営では、マンガ家の菅谷充さんに架空戦記小説を書かせているんです。現在は悠々自適。ぼくの仕事を簡潔によくまとめてくれたねと、お便りをいただきました。

小西★第7話が『少年マガジン』を飛躍させた内田勝さんと宮原照夫さん。私が尊敬する『宇宙塵』の柴野拓美さんも登場して嬉しくなりました。「エイトマン」を仕掛けて成功するエピソードがゾクゾクモノでした。

長谷●マガジンのお二人を「ライバル」という形で書いてみたら…というのが、ぼくの趣向なんです。そうすれば、お二人の編集志向の違いが、くっきり見えてくると考えました。

そして柴野さんが内田さんに協力する。ぼくが、かつて生まれて初めて小説を書いたのは、柴野さんの注文に応えてのものでした。『宇宙塵』での処女作「石段」という短篇です。

小西★私は、かつて阿佐ヶ谷の長井勝一さんのご自宅にお伺いして、インタビューをさせていただいたことがあります。それは自分のミニコミ(『ハードスタッフ』)に掲載しましたが、その中で長井さんは『ボーイズライフ』についてあれは早過ぎた雑誌だった、とおっしゃってとても誉めておられたのです。第9話・長崎尚志さんの章で元『ボーイズライフ』の小西湧之助さんが浦沢直樹さんのマンガを下品だといって破り捨てるエピソードがありました。そういうこともあって、私は一言でいえない複雑な感慨を覚えました。結局これが人間のカオスであり人の営みなのだと考えました。雑誌は本当に生き物ですね。

長谷●破った人物は小西湧之介さんしか居ない!とぼくは考えたんです。資料記事で長崎さんは、具体的に名前を挙げておられません。小西湧之介さんは「日本の雑誌やマンガは、きたない!」と、発言していたことがあるからです。アメリカ流の洗練されたポピュラリティを求めていた編集者というイメージが、ぼくの中にあります。「ゴルゴ13」も、彼が居たから出てきた…と、ぼくは考えています。そういう意味で、小西湧之介編集論も面白いかも。

小西★小説化に際して、編集者とマンガ家の代表的エピソードを絞り込むのにご苦労されたのでは?

長谷●エピソードから、物語を構築してゆくやり方は、マンガの分野ではおおいに有効な創作手段なんですよ。ですから、その点では、あまり苦しむことはなかったんですね。それよりは、リアリティを持たせることに苦心した感じです。

小西★その他にご苦労された部分は?

長谷●作品全体を、誰が理解してくれるんだろう?って考えた。創作自体の苦労はあまりなかったと思います。完成した作品は、元マガジンハウスの非マンガ系編集さんと、水声社社長の鈴木宏さんのみにしか見せていません。元マガジンハウス氏は、もっとマンガ家の話が欲しい~っていう感想でした。自分が編集なんで編集話は興味が薄かったんでしょう。

小西★水声社は、雑誌『幻想と怪奇』や国書刊行会の《世界幻想文学大系》の編集実務に関わった鈴木宏さんのおこされた出版社ですね。長谷先生の『パロディマンガ大全』といい、この『マンガ編集者狂笑録』といい、本当にありがたい出版活動の継続で、私は足を向けて眠れません。心から感謝したいと思います。

長谷●鈴木社長さんは、ぼくが70年代にパロディを描いていたときに大学生のファンでした。ぼくの最大の理解者だと思っています。だからこそ、この作品が世に出たんです。深く感謝しています。もっといい作品を書いてお返しをしなくっちゃ…って感じをいつ

も持っています。実現したいです。小西★マンガへのアプローチのも持っています。実現したいです。小西★マンガへのアプローチの方法は様々あると思いますが、現場の編集者やマンガ家の熱気やエネルギーといったものを描くのに、小説という技法は非常に良い効果を出していると感じました。最終話(第9話)は「PLUTO(プルートウ)」実現への過程を描いていて、時系列的にはもっとも最近のものなのですが、とにかく全体を通してマンガの世界が大躍進を遂げる前夜の、ある種の壮絶なカオスとでもいうべきものが作品の行間にみなぎっていると感じました。

長谷●そう感じていただけたら本望です。ありがとうございます。ぼくらマンガ家は、若いだけの世間知らずでした。編集の方々が優れたサポートをして下さったからこその、日本のマンガだと言いたい。大量に売れ出したマンガは、今度は編集者によって、作家の個性を殺す・管理するというやり方で本になったりしています。そんな状況に対しての、ぼくからのメッセージとして、若いマンガ編集者や、マンガ家志望者にも、ぜひ読んで欲しいと思っています。

小西★この混沌とした熱気が全ての基礎・出発点ですね。今回は編集者のことをお書きになっていましたが、先生は引き出しがいっぱいおありになるので、ぜひ小説シリーズを続けて下さい。例えば、ある日の宇宙塵例会の情景、タモリさんを飲み屋

に連れて行きお店の人たちに一芝居かましたときの話、山下洋輔さんたちとのヨーロッパ・ツアー、坂田明さんたちが登場するものなどをお書きになったらいかがでしょうか。そのためにも本書が売れて多くの方に読まれることを祈ります。

長谷●書きたい材料は、いろいろ有るんですが、うっかりすると、単なる楽屋落ちになりかねません。自分が、これらの人物の「人間」が書けると思えるときがくれば、それをしっかり書いていってみたいですね。しかし、老齢なんで過大な期待をされると、息が切れちゃうかもね。

小西★出版後の反響、手応えはいかがですか。

長谷●おかげ様で新聞や雑誌からの取材があります。それと有名ブ

ログ「たけくまメモ」のエントリーで、多くの読者が登場して、作品の感想を熱心に書いて下さっています。そのおかげもあってか、アマゾンでの売れ行き順位は、ぼくのこれまでの6年間の出版で一番いいです。そのほか、お便りもいくつかいただいております。こうした一種のモデル小説は、関係者やご本人からクレームが付くことがときどきあるようですが、それがありません。書店での様子は、ぼくには分かりませんが…。

小西★明らかにできる範囲で構いませんので今後のご予定をお聞かせ下さい。長谷●水声社社長からは『ギャグナンセンスマンガ史』が書き上がったら見せてほしいと言われています。二年以上前から、少しずつ書いていまして、もう半分は書けています。あと、これは突如やり出してしまったのですが、映画シナリオの執筆準備です。これも、素材はマンガ関係の話です。現在は、旧作(未発表)をケータイ投稿サイトのために、整理・入力も行なっています。四百字詰三百枚以上の長い作品です。ケータイ投稿作品は短く単純とか言われていますが、それとは全く逆でいこうと考えました。このサイトは宇都宮の専門学校が関係する、ケーブルテレビ局が立ち上げたものです。

小西★相変わらず旺盛な創作意欲に感服です。各作品、大いに期待しております。先生、健康第一です。長生きしてうんとご活躍下さいね。私はずっと応援させていただきます。今日はありがとうございました。

(2008年5月25日電子書簡にて取材/文中一部敬称略/文責=創世ホール・小西昌幸)

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