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文化ジャーナル(平成21年4月号)

文化ジャーナル4月号

新刊書籍情報

紀田順一郎『昭和シネマ館』

紀田順一郎先生は映画にも造詣が深く、その方面の著作もある。本書は映画黄金期の熱狂を現場で体験してきた紀田先生の書き下ろしによる評論集。小津安二郎作品、「雨に唄えば」などのミュージカル映画、「シェーン」、「宇宙戦争」、「七人の侍」、「鳥」などが取り上げられている。紀田先生の文体や語り口は私には常に魅惑的としか言いようのないものなのだが、とりわけ「シェーン」とその作品成立の背景を論じた章は深く、真情溢れるものだった。批評の真髄、ここにあり!
◆『昭和シネマ館 黄金期スクリーンの光芒』小学館、2008年12月3日発行。四六判ソフトカバー・270頁。本体1800円+税。

紀田順一郎『横浜少年物語』

2006年4月に東京で紀田順一郎先生の古希を祝う会があり、私も参加した。その席上、先生は映像を用いて少年時代を回顧するミニ講演を行なった。本書は、そのトークを端緒にして書き下ろされたもの。読書体験と共に紀田先生のご両親のことや自らの少年時代の思い出が綴られ、興味深い。2006年4月16日付けで紀田先生にいただいた電子書簡によると、先生は映画、幻想怪奇文学、音楽、電子文化を切り口にした回想記をまとめてゆく構想をお持ちであるという趣旨のことが記載されていた。本号紹介の2冊は先生のクロニクル・シリーズの一環であることが理解できるだろう。回想記シリーズ構想の成就を私は楽しみにしている。紀田順一郎先生、どうかくれぐれもお元気で!
◆『横浜少年物語 歳月と読書』文藝春秋、2009年2月15日発行。四六判ハードカバー・254頁。本体1619円+税。

杉浦康平編『文字の美・文字の力』

世界的なグラフィック・デザイナーにして優れた装釘家である杉浦康平先生の新著。本書では、先生が40年にわたり収集して来られたアジアの文字図像の研究成果の一端が披露されている。

例えば京都の大文字焼きの《大》の字。あるいは美しい江戸時代の小袖(着物)にあしらわれた《春》という漢字や、中国の博物館の扉に木彫りで描かれた《壽(ことぶき)》の文字などなど、様々な時代と場所と形態でアジア各地に見られる文字図像が、美しいカラー写真と的確な解説で展開される。

とりわけ《壽》の文字が実に数多くの場面で使用されてきたことに改めて驚きを覚える。本書には、祝い物や熨斗につける水引き結びの文字や、台湾の寺の線香、道教の道士の儀礼服、加賀友禅の袱紗に描かれた宝船、茶道の茶菓子、注ぎ口が二つあるモンゴルの注器(やかん)など、22もの事物が紹介されているのである。アジアの人々は、めでたい文字を様々な場所で大切にはぐぐんできたのだということがしみじみと実感できるだろう。なお、工作舎から刊行予定の『ブック・デザインの宇宙』全2巻は、しばらく先になりそうだとの由。杉浦事務所の佐藤篤司さんに電話でお伺いしたところでは、写真撮影(の準備)に時間がかかっているようだ。書影の見せ方や構図などで凝りに凝ったものになるであろうことは確実。期待して静かに気長に待とう。
◆『文字の美・文字の力』誠文堂新光社、2008年12月4日発行。A5判ソフトカバー・187頁。本体2800円+税。

岡村正史『力道山』

ミネルヴァ書房の叢書《ミネルヴァ日本評伝選》は完結すれば400名近い歴史上の人物を網羅する人物叢書で、将来、確実に日本出版史の一大壮挙と呼ばれるべきものである。その評伝選の1冊として『力道山』が刊行された。著者は神戸在住の兵庫県立高校教師で本名岡田正。井上章一氏たちと共にプロレス文化研究会を組織して地道な活動を重ねており、既に数冊のプロレス関係の著作を発表している。本書は、恐らくこれまで書かれた力道山評伝の中で最も普遍性の高い学術的な記述となっている。朝鮮半島出身者としての力道山の生涯を通し、敗戦後の日本でプロレスがどのように受容され、変容してきたかということが非常に分かりやすく書かれている。労作だ。
◆『力道山 人生は体当たり、ぶつかるだけだ』ミネルヴァ書房、2008年10月10日発行。四六判ハードカバー・298頁。本体2500円+税。

萩元晴彦・村木良彦・今野勉『お前はただの現在にすぎない』

当館は2007年に脚本家・佐々木守さんを偲ぶ講演会を開催した(講師・池田憲章氏)。本書は佐々木守さんと「七人の刑事」でタッグを組んだ演出家・今野勉氏と友人達の若き日の著作。なぜ今野氏達がTBSを退社しテレビマンユニオンを設立するに至ったかと言う背景がつぶさに記録されている。大変な労作であり、テレビ文化を支えた筋金入りの人たちのパワーに圧倒される。佐々木さんのコメントも収録されている。
◆『お前はただの現在にすぎない』朝日文庫、2008年10月30日発行。文庫判・514頁。本体1100円+税。

野村恒彦『神戸70s青春古書街図』

著者は神戸市在住の探偵小説研究家。亜駆良人の筆名で『このミステリーがすごい』などにも執筆。生業は兵庫県職員である。神戸市にある横溝正史生誕地碑建立にも尽力した。本書は野村氏が古書収集(主として探偵小説)に打ち込み始めた高校入学(1970年)から就職する1979年迄の回顧録である。古書店名で章立てし、そこで入手した本にまつわるエピソードが綴られてめっぽう面白い。珍しい書影も満載
◆『神戸70s青春古書街図』神戸新聞総合出版センター、2009年3月18日発行。四六判ソフトカバー・173頁。本体1200円+税。

カバー写真
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(2009年4月4日脱稿/文中一部敬称略/文責=創世ホール館長・小西昌幸)

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