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文化ジャーナル(平成21年10月号)

文化ジャーナル10月号

10・16【ケルト音楽の夕べ】に寄せて

北島町立図書館・創世ホールでは《北島トラディショナル・ナイト》というアイルランド~ケルト伝統音楽を探求する音楽会シリーズを、毎年秋に開催している。1997年秋にスタートし、今年で13回目となる。その記録は次のとおりである(記載は、開催日、出演者、演奏会タイトルの順。敬称略)。

  1. 1997年11月14日◎シ・フォーク「アイルランド音楽の夕べ」
  2. 1998年11月6日◎ディングルズ・ヴュー「アイリッシュ・ハープの世界」 *坂上真清(さかうえ・ますみ)+吉田文夫+赤沢淳
  3. 1999年11月21日◎ハード・トゥ・ファインド「北の調べ、ケルトの息吹き」
  4. 2000年11月4日◎カロランズ・カフェ「アイリッシュ・コンサート」
  5. 2001年11月24日◎グレイグース「アイルランド音楽の世界」  *羽ノ浦町(当時)の外国語指導助手ショーナ・マッカーノン女史(北アイルランド出身)が3曲でアイリッシュダンス共演
  6. 2002年10月13日◎セタンタ「郷愁のアイルランド音楽」
  7. 2003年9月17日◎ザ・リフィ・バンクス・トリオ「アイルランド音楽への招待」 *サポート赤沢淳
  8. 2004年11月25日◎ジャッキー・デイリー+守安功+守安雅子+北村剛「アイルランドの風」
  9. 2005年11月12日◎近世雑楽団エストラーダ「リバーダンス・ ミュージック」
  10. 2006年10月29日◎シ・フォーク「アイルランド音楽の午後」
  11. 2007年9月15日◎シャナヒー「ケルト、麗しの調べ」
  12. 2008年11月23日◎ハード・トゥ・ファインド「郷愁のケルト、北国の調べ」
  13. 2009年10月16日◎KAAZ(カーズ)「ケルト音楽の夕べ~バグパイプとフィドルの響き」

*本年

演奏者の写真

当シリーズは、第1回からコンサート事業予算なしで開催している。かつて当館では、並行して《北島クラシカル・エレガンス》という中世・ルネサンス音楽(古楽)探求シリーズを開催していた(時期は2月)。タブラトゥーラやダンスリー・ルネサンス合奏団や平井満美子+佐野健二夫妻を2回ずつ招くなどの特徴ある実績を重ねてきたが、小泉改革と称するものの影響で地方自治体が深刻な財源難に陥った年を境に、コンサート予算をゼロにしたので、《クラシカル・エレガンス》は消滅した。従って当初から予算にしばられずに取り組んできた《北島トラディショナル・ナイト》が生き残り、唯一継続した演奏会になっているのは一種の皮肉というべきだろうか。

一般に1970年代英国ロックの愛好者がケルト~アイルランド音楽に傾斜してゆく構図というものがあり、それにはある種の共通パターンがあるように見受けられる。力不足を承知で、自分なりにまとめておきたいという気持ちが以前からあったので、この機会に走り書きして置こうと思う。以下の文章は、その道に少し踏み込んだ方なら殆ど共通して抱く認識のようなものなので、私ごときに資格があるとは思えないが、至らぬ点は、どうかご容赦願いたい。

1998年にお招きしたディングルズ・ヴューの坂上真清(さかうえ・ますみ)氏は、ガイド本『ケルト入門書』(ミスター・パートナー出版部編、ミスター・パートナー発行、星雲社発売、1998年12月初版第1刷)で、ご自身の入り口がレッド・ツェッペリン「IV」の「限りなき戦い」だったこと、「IV」の中で同曲と「天国への階段」の2曲を繰り返し聞いていたこと、そこからサンディ・デニー、マイク・オールドフィールド「オマドーン」などへ拡がっていったことを明かしている。このあたりのことは、演奏会の翌日、徳島空港へお送りする際の車中で、坂上氏自身の口から直接うかがっている。

以下、私なりに70年代英国ロックと英国伝統音楽、フォーク、ケルト~アイルランド音楽が明確に交差する代表的なものを箇条書きしてみる。

前掲のレッド・ツェッペリン「IV」。ハード・ロックのアルバムにロバート・プラントとサンディ・デニーのデュエット・フォーク曲「限りなき戦い」が入っていて、ファンは驚いた。「天国への階段」も静かな美しいフォーク調のメロディから始まる。サンディ・デニーは、英国伝統音楽を演奏するフォーク・ロック・バンド、フェアポート・コンヴェンションの女性歌手で澄んだ美しい声の持ち主。

キング・クリムゾンの2枚組編集物「新世代への啓示」。ここでの「風に語りて」がオリジナル版とは異なるバージョンで、女性歌手、ジュディ・ダイブルが歌っていたので、ファンは驚いた。彼女もフェアポート・コンヴェンションのメンバーだった人。ジュディ・ダイブルは、キング・クリムゾンの創立メンバーの友人だったため最初期の構成員だったという驚愕の事実がこのとき判明した。

ピンク・フロイド「炎」。3曲目の「葉巻はいかが」のヴォーカル部分を英国のフォーク歌手、ロイ・ハーパーが歌っておりファンは驚いた。当時日本ではロイ・ハーパーは殆ど知名度がなかったが、ピンク・フロイドはハーパーの力量を高く評価していた。ロイ・ハーパーは、ロック系人脈から尊敬を集めており、彼のアルバムにはピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアや、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがゲスト参加している。

ザ・フーのロック・オペラ「トミー」のロンドン・シンフォニー・オーケストラ版の冒頭部分に、サンディ・デニーが登場し澄み切った歌声を響かせる。

マイク・オールドフィールド「オマドーン」。世界一有名なアイルランドのバンド、チーフタンズのパディ・モローニがイリアン・パイプスの演奏で参加している。

ほかにも、ハード・ロックのバンドがケルト系伝統音楽を演奏することはよくある。また、フェアポート・コンヴェンション周辺を探求すると、必然的にスティーライ・スパン、アルビオン・バンドという大きな潮流にもつきあたる。3つのバンドは相互に関連して今も存在し(活動歴はみな40年前後)、中心的役割を果たしたマーティン・カーシーやリチャード・トンプソンやアシュレイ・ハッチングスは英国音楽史において大きな足跡を残し、今も前進している。特に後二者は、明確にクラシック系古楽人脈とつながりがある。伝統音楽の地道で誠実な発掘作業や採譜活動の故であろう。

私は、ダンスリー・ルネサンス合奏団+坂本龍一「ジ・エンド・オブ・エイシャ」などを入り口にして、古楽にも関心を広げた。基本的にこちらはクラシック系の本格的音楽教育を学んだ演奏家が多いが、垣根は意外と低い。シャナヒーはダンスリー人脈に連なり、守安功氏は元タブラトゥーラの人なのである。

そしてケルト~アイルランド音楽演奏家と古楽演奏家が共通して演奏する楽曲に「グリーンスリーブス」「スカボロフェア」「サリーガーデン」などがある。すなわち、探求が深化し、ここに到るともはや音楽分野の境界線は存在しないのである。

殆ど脈絡もないまま、つたないメモを書き散らし収拾がつかなくなりそうである。12年間催しを続けながら、私は上記のような思索を続けてきた。お目汚しをおわびしたい。

図書館カウンター前では、9月29日から【アイルランド~ケルトに関するCDと本】という特別展示を行なっている。50点以上の文献資料のほか、北島トラディショナル・ナイト歴代出演者のCDも多数展示している。冒頭記した事情からこのシリーズは、必然的に毎回背水の陣で望む取り組みとなっている(私にしても、いつ配置転換があるか知れない)。そんなわけで、心ある皆さんに10・16【ケルト音楽の夕べ】へのご支援を切にお願いする次第です。

(2009・10・02脱稿/文中一部敬称略/文責=創世ホール館長・小西昌幸)

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