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文化ジャーナル(平成21年11月号)

文化ジャーナル11月号

新刊情報
辻 真先『「鉄腕アトム」から「電脳コイル」へ』

本の表紙

辻真先(つじ・まさき)先生待望のアニメ関係の新著『「鉄腕アトム」から「電脳コイル」へ アニメとはなにか』(松籟〔しょうらい〕社、2009年10月16日、本体1600円)が刊行された。

2008年3月2日に当館で辻真先先生が講演されたとき(演題「アニメ三国志」)、事務室には京都の出版社・松籟社の木村浩之さん(編集者)がわざわざ駆けつけてくださっていた(そのほかには作家の芦辺拓さんや、夢人塔の浅尾典彦さんや、辻ファンの中年女性陣)。本書は、北島町で木村氏が辻先生に直接書き下ろし単行本の執筆依頼をして、約1年半後に見事な精華となって結実したアニメ論集である。

本書は、今後のアニメーション文化史を語る上での必読文献となるのではないか。第1章は「いくらかの知識を」と題した基礎知識編である。日本のアニメの略史、制作現場での用語解説、ミニ人名事典で構成されている。巻頭の35頁の中に上記情報が盛り込まれているのである。考えてみれば凄い情報量であるといわねばならない。だが、それらは辻真先節とでも言うべき軽妙な文章で平易に綴られており、読みやすいのだ。そして同時に奥行きは実に深い。辻先生と、講演打ち合わせの電話を何度かやり取りした際、日本のアニメ制作現場の悲惨さ(低賃金・重労働)と将来を愁えておられたことが印象に残っている。日本アニメの隆盛を語るときも、無邪気さは一切なく、苦味を知った人の語り口なのだ。だから深いのだと思う。

第2章以降は、社会現象となった「宇宙戦艦ヤマト」「ガンダム」「エヴァンゲリオン」と熱狂的ファンについての考察、米国に販売した「ジャングル大帝」「マリンキッド」での体験、キャラクター商品販売の巨大市場、制作現場での低賃金(年収百万円台)への警鐘と人材の海外流出の可能性など、さまざまな角度からアニメーションをめぐる状況が考察される。どれも実体験から紡ぎ出された言葉なので、語り口がいくら軽妙でも、やはり遠くを見据えている。

第6章は「アニメをどう書いてきたか」と題してテレビアニメのシリーズ構成についての分析が、経験を踏まえて語られる。

第7章は「大江戸ロケット」と「電脳コイル」の全話(各26話)をそれぞれ起承転結の物語構造に当てはめて、精緻な分析を加えてゆく。1500本超の脚本を書いたアニメ界の超ベテランが、実に楽しそうに筆を進めている。

最終章「おわりに テレビアニメはどこへ行くのか」。この章で辻先生はテレビを「アニメの繭」と仮定して、そこから未来のアニメが羽ばたいて欲しいという、美しい祈りを込めた持論を展開されている。だが、同時にそこで働く人たちが貧乏で、家族さえ養えない現状を見つめる。この実態を知らぬ連中が自慢げに、アニメが日本を代表している等と語る現実があり、「夢も志もない人や企業」がアニメに触手を伸ばすような事態への警鐘を鳴らして、論考を終える。

『テレビアニメ青春記』(実業之日本社、1996)、『ぼくたちのアニメ史』(岩波ジュニア新書、2008)と合わせて読めば、より立体的に日本の戦後アニメの実相が浮かび上がるであろう。労作の完成を心から喜びたい。

本の表紙

森崎偏陸『へんりっく ブリキの太鼓』

森崎偏陸(もりさき・へんりっく)さんは1949(昭和24)年11月27日、兵庫県淡路島の三原郡廣田村(現在の南あわじ市)で生まれた。珍しいお名前だが本名である。今年還暦を迎えるわけだ。彼は、二度創世ホールにおこしになっている。一度目は、九條今日子さんの講演会「夫・寺山修司を語る」(聞き手白石征さん)でサプライズ・ゲストとして後半に登壇し、物凄く面白い話を披露された。二度目は、三上寛さんとJOJO広重氏のジョイント・コンサートのときに観客としてきてくださり、三上さんは大喜びしたのだった(二人は打ち上げ会場の北島町のバーミヤンで店が閉まるまで大騒ぎしたらしい)。この日森崎さんはコンサート会場に来る前は、徳島県立文学書道館で開催中だった竹宮惠子さんの展覧会を見に行き、旧知の竹宮さんご自身の解説つきで鑑賞されたのだった。淡路島は、大変な逸材を生んでいるのである。

森崎さんは寺山修司の劇団・天井桟敷のスタッフとして1967年9月から関わり、やがて寺山の助手的立場となる。寺山が他界して後に、寺山の母親から請われて九條今日子氏と共に養子縁組をして、戸籍上でも寺山修司の義弟となる。森崎さんのお仕事は物凄く幅が広く多彩である。以前東京の津田ホールで野坂惠子先生の箏曲演奏会に出かけたら(野坂先生からご招待状をいただいた)、会場で森崎さんと出くわして驚いたことがあった。そのときのリサイタルは、 音楽家の松村禎三さんの作品によるもので、森崎さんは松村さんの助手の仕事をされていたので、会場においでたのである。

徳島は淡路島と近いし(昔は淡路は徳島に所属していた)、私が徳島の田舎町で九條さんの講演会や三上さんのコンサートをしているので面白がってくださったのだと思う。以降森崎さんはときどき関係された書籍資料などを送ってくださるようになった。本書も、森崎さんからお送りいただいたものだ。

本書は聞き書きによる森崎さんの半生記と写真、そして彼が手がけた誠に多彩な仕事の記録集という構成で作られている。十代後半から寺山修司と天井桟敷の現場にいて、今では身内として著作権管理などをしているので、当然インタビューでは天井桟敷の公演一つ一つの思い出が克明に語られ、寺山修司との節々での会話などが網羅されている。天井桟敷や寺山修司の写真も満載。研究家や愛好者は必読である。また、私は自分の勉強不足を恥じているのだが、森崎さんがこれほど多くの装訂やポスター・デザインを手がけておられることを知らなかった(特に演劇や舞踏のチラシ、ポスターが多い)。彼のデザイン仕事の一部も本書には記録されている。見ていてまったく飽きることがない。

本書はもともと、森崎偏陸さんについてのドキュメンタリー映画「へんりっく 寺山修司の弟」(監督=石川淳志、117分、2009)の完成に合わせて企画されたものらしい。この映画も本書を大切に思う者は必見であろう。

森崎偏陸『へんりっく ブリキの太鼓』ワイズ出版、2009年10月10日発行、A5判ソフトカバー・142頁。本体1800円+税。

(2009・11・07脱稿/文中一部敬称略/文責=創世ホール館長・小西昌幸)

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