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文化ジャーナル(平成23年9月号)

文化ジャーナル9月号

採録 池田憲章氏講演/脚本家・金城哲夫(5)

2011年2月27日北島町立図書館・創世ホール(徳島)

2月に開催した池田憲章氏講演会「脚本家・金城哲夫~特撮とドラマを初めて融合させた人」の講演採録を連載でお届けしています。文責は全て創世ホール・小西にあります。(文中一部敬称略)/写真撮影=高橋和之

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「ウルトラQ」に「ガラダマ」という作品がある。ここにはガラモンという、宇宙ロボットなのに背中にトゲトゲがあって、何ともいいようのない、歩くたびにシャカシャカという不思議な金属音を出す、「ウルトラQ」の名怪獣が登場する。これは的場徹さんという、大映で「鯨神」とか「釈迦」とか「宇宙人東京に現わる」を作ったベテランの当時40代後半の名監督が作ったものだ。的場さんが言っていたが、金城哲夫のシナリオをもらった時に、頭の中に絵コンテが浮かぶということだった。「撮ってみたくなる。絵にしたら面白いだろうなあと、必ずそういうビジュアル的なアイデアが中にある」と。

「ガラダマ」で言えば空から隕石が降ってきて、湖に落下して水が蒸発すると、湖底の真ん中に小山のように盛り上がった隕石がある。そこから蒸気が噴き出して、怪物が姿を見せると、それは宇宙ロボットだった―。面白い。

そういうシナリオは、以前にはなかった。これまでの脚本ではそういう部分は監督におまかせだった。金城はいわゆるダイアローグ、ストーリーの魅力と同時にそれをどういう絵で支えるのかという部分を、ビジュアルとドラマを両方設計できる初めての日本のテレビ・ライターだった。

機会があれば皆さんにぜひ見ていただきたいのが、「ウルトラQ」の「1/8(はちぶんのいち)計画」だ。江戸川由利子さんが通勤するシーンで始まる。山手線の渋谷かどこかの満員電車の光景が映り、彼女が混雑した駅の階段を少しよろけるとスローモーション撮影になって「世界一の人口密度をもつこの町では、今、深刻なたたかいが始まろうとしているのです…」というナレーションが流れる。

物語が進んでいくと「1/8対策委員会」という組織が出てくる。「なんだろう、これ」と思ってみていると、由利子が万城目たちと取材に行くと、実は人間を8分の1に縮小して人口密度や食糧問題を解消しようというお役所の計画なのだった。そんなものをいつのまにスタートさせていたのかと疑問に思うわけだが「いやいや、全然怖いことはありませんよ。みなさん8分の1ですから。その方が楽ですよ。税金もないし」。ずいぶんノンシャランなお役所の人の発言で。それで由利ちゃんは、あれよあれよという間に縮小されてしまうわけだ。

自分が(納得していないのに)小さくされてしまった。でも由利子は行動的な女の子なので、そのまま8分の1の社会で暮らすことにはならない。何としても大好きな万城目に会いたい。それで万城目の事務所をめざす。はっきりと描かれてはいないが、どうも設定では、この計画に参入すると「あの人は、現世の生活を捨てたらしい。だから関わってくれるな」と、たぶん役所に言われるのだろう。結局、「由利ちゃんのことは、もう言うな」という雰囲気になって、 あんなに会いたかった万城目の事務所に飾ってある由利子の写真も黒いリボンを写真立ての枠に貼ってあって、亡くなった人のような扱いになっている。スタッフは巨大なセットを作って、作品作りをやりきったわけだ。

「その写真しまえよ」と言われて、一平が「え、でも由利ちゃんがかわいそうじゃないか」と反発する。でも忘れたい万城目は仕事に出るわけだ。大きな受話器を持ち上げて苦労して由利子がデスクに電話するが「幽霊と話している暇はない」と言われる。新聞記者が言いそうな話だ。由利ちゃんは1/8計画に戻ってゆく。

ミニチュア・セットの中に万城目とか一平がやって来る。あそこは、円谷一さんが演出している。円谷一という人は、特撮をやってみたくて仕方がなかったのだ。俺だったらこうすると。だから佐原健二さんなんかは「ちょっとスローモーション風に動いてくれ」と円谷一さんから演技指導を受けたらしい。それで由利ちゃんがいるに違いないと言って、「由利ちゃーん」と叫んで探しに行く。そうすると「もう二度と会えない。自分はもう8分の1のサイズになっていて、同じ人間には戻れない」。でも感極まって「淳ちゃん、一平くーん」と呼ぶわけだ。小さなお人形さんのような由利子を見つけて、淳が「一緒に帰ろう。一の谷博士に相談するんだ」と。

特撮があんな風に使われたのを僕は初めて見たが、万城目の突き入れた指が目の前に出現したときに、自分が全く違う人間になってしまったということを、由利子は痛感するわけだ。そして「もう帰って。大丈夫、平気なの」。さっき呼んだのに、「もう帰ってよ」という。「ここの住人たちはみんな親切だし、私、幸せよ」と。万城目「何言ってるんだ。帰ろう」。結局死ぬ気で事務所に行ったのに(その時気づいてくれなかった)、みんなひどいわひどいわと、由利ちゃんは泣く。

巨人(淳と一平)がやってきたために逃げ惑う市民の中に入って、百合子はまた階段から落ちる。病院に由利子が運ばれて、不思議な気持ち悪い音楽が流れて、そこの病院に万城目と一平がやってくる。「由利ちゃん、大丈夫かなあ」「駅の階段から落ちるなんて、よっぽどどうかしていたんだ」「お前、いい加減なこと言うなよ」。観る者は「ああ、冒頭シーンにつながって夢オチなのか」と。

ところが由利子は、万城目たちも小さくなってくれたと思うわけだ。「同じだったのよ、みんな。みんなも小さくなったら同じだ」 と言って、由利子は不用意なくらい喜ぶ。あれは、「ウルトラQ」を長く観ている人間からすれば、自分をはっきり好きだと言ってくれない万城目へ夢の中で願望を遂げた描写だ。自分を助けるために万城目が8分の1にまでなって来てくれた。これは恋愛ストーリーだ。しかもそれは、独りぼっちになってしまった由利子という女性の哀感を、特撮によってブラッシュアップする(磨き上げる)ということを達成している。僕は、特撮ドラマのある種の革命というのは、あそこから始まったのではないかと思う。

「1/8計画」は、技術的にも優れた作品だが、金城哲夫にとっては特撮になってもそこでは人間ドラマが演じられる空間なわけだ。人間ドラマの方は、かえって氷のように冷たい人間たちのドラマでありつつ、その中に万城目たち3人を放り込んだときに、またえも言われぬ味わいが出る。僕らは、特撮ドラマでこういうことができるのかと、びっくり仰天したのだった。(次号に続く)

(2011・02・27収録/文中一部敬称略/採録文責=北島町立図書館・創世ホール館長小西昌幸)

紹介 竹内博『特撮をめぐる人々』ワイズ出版

先月号当欄で追悼文を書いた竹内博さんの遺著が刊行された。1980年代に『宇宙船』で連載された本多猪四郎、伊福部昭、矢島信男、渡辺明、田中一清、円谷マサノ諸氏への濃密なインタビューと、論文3本(「技術から見た特撮映画の変遷 日本篇1909-1984」「ゴジラ映画1954-1975」「『延命院の傴僂男』円谷英二のキャメラマン第一作について」)という構成で、読み応えがある。奥付に親友・西脇博光さんの文で、竹内さんが刊行を前にして他界した旨の報告があり、涙を誘う。刊行関係者各位に深甚なる敬意を表したい。そして可能なら竹内さんの文章をもっともっと読みたい

『特撮をめぐる人々』ワイズ出版、2011年8月27日発行、A5判・192頁、本体1600円+税。

本の表紙

「創世ホール通信」200号達成

「創世ホール通信」は今号で通算200号を達成しました。1995年2月にスタートしたので16年間続いたことになります。以来、毎月発行することができました。創刊号の「文化ジャーナル」では「澁澤龍彦のこと」と「板東孝明氏の仕事」という2つのコラムを書きました。当時は全く純粋なコラム文章としてそれを書いたので、まさかその後に澁澤さんに関する催しを開催し、夫人が来場されることになるなどとは、夢にも思っていませんでした。板東孝明さんにもその後お会いし、インタビュー連載しましたので、創刊号である種の路線は敷かれていたのかもしれません。いずれにせよ、皆さんの支えがあって初めて続けることができたのだと思います。感謝あるのみです。そして今後ともよろしくお願いいたします(小西昌幸)

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