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文化ジャーナル(平成25年5月号)

文化ジャーナル5月号

新刊紹介 小西昌幸

内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』

1970年代の4年間に私は名古屋で大学生活を過ごした。その時、古書店まわりの楽しさをおぼえ、デパートでの古書フェアなどにもよく足を運んだ。当時よく目に付いたのが、薔薇十字社の本で、明らかにゾッキ本(版元倒産などの理由で安く流通した本)として、それらはあった。私は、種村季弘先生編『ドラキュラ、ドラキュラ』や久生十蘭『紀ノ上一族』や加藤郁乎『エトセトラ』などを買った。唐十郎の雑誌『ドラキュラ』や『月下の一群』を義務のように買っていたので、上記の書物に心惹かれることは必然であった。

内藤三津子氏は澁澤龍彦責任編集の高級雑誌『血と薔薇』の編集人として、後に薔薇十字社を興した人として知られる。薔薇十字社は、怪奇幻想文学愛好者にとっては伝説的な出版社で1969年末から1973年夏まで存在した。

本書は薔薇十字社の代表だった内藤三津子氏へのインタヴューによる半生記である。べらぼうに面白く、知的興奮に満ちていて、ワクワクしながら一気に読了した。聞き手の小田光雄氏の間合いが絶妙で、かゆい所に手が届く巧みな質問で舌を巻く。特に当時のユニークな出版社についての言及が、良い資料になっている。

内藤氏は、姉や兄が文芸同人誌に関わるなど、出版や芸術の空気を身近に見るような環境に育った人だった。その姉と兄は吉行淳之介、いいだ・もも、小川徹などの『世代』の同人だったというから、格段の才気溢れる文化的家風だったことが伺われる。

内藤氏の編集者としての経歴は、1960年の玄光社入社に始まる。その後中山書店、七曜社、新書館と遍歴し、新書館で寺山修司を知る。山野浩一『X電車で行こう』が寺山修司の紹介で刊行されたこと、その山野氏の紹介で白石征さんが新書館に入社されたことなども語られる。白石さんは創世ホールに所縁があり、九條今日子さんの講演会(「夫・寺山修司を語る」)で登壇いただいた人で、寺山修司の本をもっともたくさん編集した人として知られる。とにかく、私のような者にとっては、ページをめくるたびに刺激的情報が溢れてくる内容だ。

その後は、『血と薔薇』(天声出版)編集、薔薇十字社設立とその出版活動、同社の倒産、出航社による再起、などが怒濤のごとく語られる。さらに都市出版社との関係、林宗弘と三崎書房のこと、路書房にまつわる出来事など、物凄い情報量の内藤氏周辺の魅惑的な出版界の地下水脈的話題が語られるのである。ちなみに三崎書房は紀田順一郎さんと荒俣宏さんの『幻想と怪奇』創刊号を刊行した版元だ(同誌はその後歳月社から12号まで出て休刊)。

また、小川徹の『映画芸術』も手伝ったとあり、興味をひかれた。本書によると、この「出版人に聞く」シリーズでは、水声社の社長・鈴木宏さんへの聞き書き(『書誌風の薔薇から水声社へ』)も予定されているという。鈴木氏は『世界幻想文学大系』に関わり、長谷邦夫さんのよき理解者としても知られる。刊行が待たれる。

表紙

内藤三津子『薔薇十字社とその軌跡』論創社、2013年3月25日初版第1刷発行、四六判・166頁。本体1600円+税。

坂田 明『私説ミジンコ大全』

創世ホールおなじみのジャズ・サックス奏者、坂田明さんは、ミジンコ研究の大家でもある。本書はミジンコに関するエッセイ、著者撮影の美麗な極彩色写真、3人の研究者との対談をまとめたもの。懐が深く、ユーモラスな坂田さんのお人柄そのものの文章は、実に奥深い。それでいて「ひさうちみちお的世界に入り込み」などというフレーズがさりげなく登場したりするのだ。

坂田さんのグループの演奏を8曲収録したCD「海」も付いている。叙情的で美しい音楽群は、東北への鎮魂の意味合いをこめているのではないか。CDだけでも2000円からの値打ちがあるのに、読み応えタップリの本も一緒でこの値段。なんと良心的なのだろう。

以下は、余談。たまたま本書には収録されていないが、私は、坂田さんの音楽作品「ハタハタ」が大好きで、同曲こそは《キング・クリムゾン「エピタフ」やピンク・フロイド「炎」などの音楽と互角に渡り合える、極東日本が誇る堂々のプログレッシヴ音楽作品》として常日頃位置づけている。自分の葬式に流したい音楽の候補の1つである。

表紙

坂田明『私説ミジンコ大全』晶文社、2013年1月20日初版発行、A5判ハードカバー・212頁。本体2500円+税。

東雅夫編『怪獣文藝』

以前、東(ひがし)雅夫さんに「河出文庫の『怪獣文学大全』や『恐竜文学大全』は、胸がときめくアンソロジーでした。ああいうものは何冊持っていても嬉しいです」という趣旨のことを話したことがある。彼は「今は手に入りにくくなっているから、何とかしたいんだけどねー」と答えた。

本書は、その路線の新作競作集だ。小説の他、対談、エッセイ、童話など実に盛りだくさんの内容。往年の『怪獣画報』(秋田書店)仕立ての造本がとても楽しく、目を引く。誰かと見れば、装釘者は坂野公一さんだった。坂野さんは、杉浦康平プラスアイズご出身で、杉浦先生講演会のときは映像助手として創世ホールに来られた方なのだ。表紙イラストは開田裕治氏。

巻頭カラー頁には徳島市在住の実話怪談作家・松村進吉氏の怪獣童話作品「さなぎのゆめ」も収められている。絵は天野行雄氏。

そのほかの登場者は、山田正紀、菊池秀行、牧野修、吉村萬壱、黒木あるじなど。赤坂憲雄と佐野史郎の対談、夢枕博と樋口真嗣の対談も読み応えあり。(いずれも司会進行は東氏)

表紙

東雅夫編『怪獣文藝』メディアファクトリー、2013年3月11日初版第1刷発行、四六判ハードカバー・318頁。本体1900円+税。

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